【報告】「演劇と社会包摂」 制作実践講座

身体表現ワークショップ「障害からひろがる表現とケア」

 撮影:富永亜紀子

 九州大学ソーシャルアートラボでは2018年度より、「演劇と社会包摂」に関するアートマネジメント人材を育成するための制作実践講座を開催しています。昨年は、多様な表現を支える為に必要なコト・モノを実践的に学び、受講生自身の活動に活かせるような講座としました。

2年目となる今年は、「障害からひろがる表現とケア」をテーマとし、受講生にとって、多様な身体を持つ人々が参加する演劇作品の制作現場でのコミュニケーションのあり方や、ケアのあり方などを実践的なワークショップとフォーラムを通して知り考える機会としました。

障害者にとって日常的なケアやサポートは、演劇の制作現場においても欠かせません。受講者は、日常から生まれる表現について考えたり、表現活動を行う上で予想外に起こる「障害」と向き合ったりしながら、現場から気づきを生み出すという経験を積みました。

 

身体表現ワークショップ「障害からひろがる表現とケア」

 この講座は、作曲家でピアニストの野村誠さん、ダンサーで振付家の遠田誠さん、俳優で演出家の倉品淳子さん、アーツマネージャーの吉野さつきさんの4人が、音楽×ダンス×演劇×マネジメントというお互いのジャンルを越えて、アートの新しい可能性を考えながら活動している門限ズと、認定NPO法人ニコちゃんの会代表の森山淳子さん、同法人で俳優として活動をしている森裕生さん、里村歩さん、廣田渓さんを講師に迎え、身体ワークショップを2日間にわたって開催しました。

今回は、講義を一方的に聞くというスタイルではなく、講師も受講者もいっしょに身体を動かし考えながら、障害のある人を含む多様な人々と知り合っていくというプロセスを通じて、「表現」や「ケア」についてもう一度考え直すという実体験スタイルで実施しました。

 

■1日目6月1日(土) 参加者22名

ワークショップ

門限ズの自己紹介のあと、ウォーミングアップを行いました。3〜4人ごとにグループになり、まるで1人の人物になったかのように、アイコンタクトで言葉を合わせ、即興の会話を進めるというものです。はじめはうまく合わせることができませんでしたが、徐々にコツをつかんでいき、最後は、22人対1人で会話をすることを試みました。参加者からは「少ない人数で合わせるより、大人数の方が合わせやすくなる」という感想が多く出ました。

次に、鏡合わせのように同じ動きを3人で同時にやるというワークを行います。それぞれ自由な動きから始まりましたが、連動していくうちに不思議と一つの動きに収斂されていきました。

 休憩をはさみ、認定NPO法人ニコちゃんの会で俳優として活動する森さんより、自身の障害について、日頃体調を気遣うためにやっていることなどについてレクチャーがありました。森さんは「障害者が自分らしく自分にしかできないことをやっていくには、それを理解し支えケアしてくれる環境が、うまく循環していかないとできない」「いろんな障害を持った人と一緒の舞台に立っているが、それを感じさせない世界観がとても好きなので、その世界観を多くの人と共有したい」と語られました。受講生は、筋肉や体力の衰えを軽減させる為に森さんが毎日行っているトレーニングメニューや食事の量の多さに驚いていました。また、森さんの体を触ることで、筋肉が緊張して硬くなっている状態を知ることができました。

 最後に、それぞれのお出かけ先を共有し1日目を終えました。

 

■2日目6月2日(日)参加者25名

ワークショップ

 初めに、認定NPO法人ニコちゃんの会で俳優として活動する里村さんよりお話を伺いました。里村さんは、自身の障害について文字盤なしでコミュニケーションをとれる人をうらやましく思うことや、進行性の病気であることを受け止めて1日1日を悔いの無いように生きようと思っていることなどを話し、「みんなも悔いのないように生きてください」とメッセージを伝えました。

次に、同じ法人で俳優として活動する廣田さんよりお話を伺いました。廣田さんは、まず、自身の障害のことを森さんの障害と比較しながら説明され、校区の小学校から特別支援学校へ転校して、自分が終わってしまったように感じ、何も表現しなくなってしまったことの話がありました。その後、演劇と出会い、表現せざるを得なくなり、徐々に自分を取り戻していったように感じているということです。そのような経験を通して「気づかないうちに自分も他の人も、違いという壁をつくっているんだなぁ」と感じたそうです。

 その後小休憩をはさみ、1時間程度、楽器を鳴らしながら体を自由に動かしました。

 昼の休憩では、前日と同じ3グループそれぞれでテーブルを囲み、認定NPO法人ニコちゃんの会の森山淳子さんのコーディネートにより、一緒に食事をとりました。受講生は、コミュニケーションをとりながら交代で食事の介助を行いました。はじめは、恐る恐る口の中へ食べ物を入れていたり、こぼれてしまって上手くできなかったりしているのを、グループのみんなが一喜一憂しながら進めていましたが、量やタイミングなどを本人に聞きながら進めていくうちに、スムーズに進められるようになっていきました。

 

 昼食が済み、みんなが会場に集合するまでの間に、時間を持て余すように廣田さんがピアノを弾き始めると、倉品さんがセリフを言い始め、遠田さんや野村さんが即興的に動き、パフォーマンスのような雰囲気になりました。昼食を終え会場に戻って来る受講生は、「何が始まっているんだろう」と不思議な表情を浮かべながら、周りで鑑賞していました。

 午後はまず、昨日のお出かけを通じて自分の気持ちが動いたもの、出来事、気になったことなどをキーワードとして書き出し、グループ内でシェアしました。そして、その気になったことから新たな表現を共同で生み出すための話し合いをし、パフォーマンスをクリエイションしていきました。

その後門限ズが1グループごとに演出やアイデアのアドバイスを行い、それぞれ最後にパフォーマンスの発表を行いました。森さんグループは1日目に大橋駅方面に行きましたが、パフォーマンスに使用したシーンは学内を見学していた時に起こった出来事で、重く大きな壁(扉)があって中に入ろうとしたけど入れなかったことや、360度サラウンドで音源が再生される部屋と残響室の音の伝わり方を表現しました。里村さんグループは、学内にある噴水の周りで歌ったり、グラウンドでそれぞれに散歩していたり、会場へ戻ってきたときのことを表現しました。廣田さんグループは、お出かけ中にいくつかの「障害」があったことや、体を持ち上げて川へ入ろうとしたことなどを表現しました。

 全体の振り返りでは、受講生自身がこれからどんなことをしていきたいのかを語り合いました。受講生からは、自分も勝手に境界線を引いていたということや、個人対個人として向き合ってお互いにコミュニケーションをとることの大切さへの気づきなどが語られました。最後に吉野さんから「今後いろいろな場面で、今日の気づきや出来事を人に伝える機会があると思う。どういう風に言葉を使うか、言葉を使わずに伝えようか、と、一度立ち止まって考えることがとても大事です」という話がありました。

 多様な身体を持つ人々が参加する演劇作品の制作現場では、様々なコトやモノが「障害」となります。またそれは日常にもあり、その壁は知らず知らずに自分から作ってしまっているかもしれません。障害や健常に関係なく、一人一人と向き合い、コミュニケーションをとりながら進めていくことが大切なのではないか、と学ぶ機会になったのではないでしょうか。

(文責:眞﨑 一美)

九州大学大学院芸術工学研究院 ソーシャルアートラボ事務局

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