activities|「演劇と社会包摂」制作実践講座

【報告】「演劇と社会包摂」制作実践講座 オンラインワークショップ&ディスカッション

2018年度より「演劇と社会包摂」に関するアートマネジメントができる人材を育成することを目的に開催してきた本講座は、身体表現によるコミュニケーションを対面で行うことを通して、様々な気づきを生み出してきました。今年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大状況を考慮し、6月、7月の講座はオンラインで開催しました。ワークショップは参加者と講師をZoomで繋ぎ、ディスカッションはZoomからYouTubeでライブ配信をし、YouTubeのコメント欄に視聴者から意見をもらいながら進めました。ソーシャルアートラボにとって、講座全体をオンラインで開催するのは初めての試みだったので、今回の講座がどのような場になるのか不安な部分もありましたが、さまざまな気づきが多い場となりました。

 

 講師は昨年に引き続き、異ジャンルコラボバンド 門限ズ[野村 誠(ノム/作曲家・ピアニスト)、遠田 誠(エンちゃん/ダンサー、振付家)、吉野 さつき(めい/ワークショップ・コーディネーター)、倉品 淳子(じょほんこ/俳優・演出家)]、森 裕生(もりっち/舞台パフォーマー)、里村 歩(あゆきち/俳優)、廣田 渓(ケイ/俳優)森山 淳子(うんちゃん/認定NPO法人ニコちゃんの会代表)をお迎えしました。

 

 

初回の2020年6月13日(土)オンラインワークショップ「それぞれの日常を交換する」は、全国各地から13名のご参加をいただきました。ご参加いただいた方の半分以上が、Zoom画面の切り替え操作などに不慣れということもあり、本学教員の長津と門限ズのノムさんが操作方法などの説明を最初に行いました。その中でノムさんは「みんな使っているからみんな知っているのが当たり前となると、それを知らない人にとっては、全然意味がわかりません。みんな知ってますよね。って進めそうになったら声をかけてください。いろいろよく知っている人とよく知らない人がいるから、みんなが使いやすいようにしましょう。アクセシビリティってそういうことだと思います」と話されました。その時のことを終了後の参加者アンケートに「何も知らず参加した私にとって、真のアクセシビリティについて言葉として理解できた気がしました」と書いてくださった方もいらっしゃいました。

その後、門限ズが以前鳥取で行なった演劇公演のワンシーンをみんなで追体験してみました。「生と死について考える〜いかに生きるか〜」をテーマとしたシンポジウムのシーンから、エンちゃんからのキューで全員がそれぞれの画面を操作し画面上に次々現れ、船に乗っているように一斉に揺れてみたり、船が何かに衝突したように一斉に大きく揺れてみたりしました。そこへ、ノムさんのピアノとじょほんこさんのセリフが入り、またシンポジウムのシーンにもどるという一連のワークは、映画のワンシーンを見ているようでした。

次に、5つのグループに分かれ、それぞれの日常で起こった些細な出来事を話し合い、寸劇をつくりそれぞれ発表しました。作品の中には、飲み物をついで乾杯する様子を再現したものもあり、マジックのような面白い演出もみられました。

続けて、講師を含めた全員を2グループに分け、音を出さずに一斉に動くというワークや、逆に音を出しながら動いてみるというワークを行いました。これは、自動的に音を出している人を検知してその画面を映し出すというZoomの機能を活かしたもので、偶発的に映し出される画面が、思ってもいなかった偶然を生み出し、おもしろいできごとがたくさん起こりました。

休憩をはさみ後半は、あゆきちさん、ケイさん、もりっちさんから、日常をテーマにレクチャーをしていただきました。あゆきちさんは、自分が毎日行っているストレッチをみんなと一緒行い、自分が病院で行っているリハビリについて紹介をしてくださいました。ケイさんは、ピアノの弾き語りで今自分の身の回りで起きていることや、それを通して思っていることなどを語られました。もりっちさんは、新型コロナウィルスは自分たちにどんな影響を与えているかや、それを受けて自分で考えたリハビリやトレーニング方法について、ユーモアを交えながらお話ししてくださいました。

この日のワークショップの時間は、ハプニングやトラブルを偶然起こったおもしろいできごとと捉え、新しい気づきと表現をつくり出していくという場になりました。

同日夜に開催したオープン・ディスカッション「次にみんなで何しよう? - オンラインで考える表現とケアの現在」は、はじめにワークショップの映像を見ながら振り返りをしました。YouTubeの視聴者からは、「“遠いからできない”を“遠くでもできる”に変えるツールとしての側面をオンラインに見出したいです」や「この機会に便利さの中の不便さを面白がって、不便さの中の豊かさを共有できる機会となれば良いですね」「参加する人のスタイルが自由というのがこれまでと違うな~」などのコメントをいただき、登壇者がその都度コメントに答えながら進めていきました。

そして「次回何をしようか?」と登壇者同士がアイディアを出し合う中で、もりっちさんは料理関係の何か、ケイさんはピアノや音楽を使った何か、あゆきちさんはエンちゃんとダンスという方向性が決まりました。

第2弾となる2020年7月18日(土)オンラインワークショップ「それぞれの日常を交換する 応用編」は、12名の方にご参加いただきました。前回同様、始めにZoomの基本操作方法について本学教員の長津から説明を行い、門限ズの提案で仲間集めゲームや、名前を呼ばれた人だけが残るというゲームを行いました。

その後、「日常の交換」をキーワードに、もりっちさん、あゆきちさん、ケイさん、それぞれにワークショップを行っていただきました。

もりっちさんによるワークショップ「MORI’Sキッチン」は、もりっちさんがトマトパスタを作るために買い物や調理をしている映像を流しながら、クイズ形式で行われました。参加者は、もりっちさんの私生活を垣間見ることで、自分との違いや共通点を知り、健常や障害の枠を超えた気づきを得ていただいたように思います。

次に行われたケイさんのワークショップでは、グループごとにクリエイションや発表をしました。クリエイションでは、Zoomのブレイクアウトルームという機能を使い各グループに分かれ、参加者それぞれの身近にあるマグカップや茶わん、ハンガー、下敷きなどを持ち寄って音を鳴らし、どんな音楽ができるか話し合いました。発表では、各自思うがままに音を発しているようにも見えましたが、どれも調和がとれた心地よい響きとなって伝わってきました。身近なものを楽器として使い音楽を奏でることで、言葉ではないコミュニケーションをオンラインでも体験できたと思います。

 

 

1時間の休憩をはさみ、後半は、あゆきちさんとエンちゃんのコラボレーションによるダンス作品の発表と、講座全体の振り返りを行いました。

 

あゆきちさんとエンちゃんコラボレーションによるダンスについて、6月の講座以降今回の講座までの期間に、それぞれのダンス動画を送り合ったという経緯を全員で共有するために、まずはその一連の動画を見ました。砂漠をイメージさせる音楽に合わせて車いすに乗ったあゆきちさんがパフォーマンスをする映像。エンちゃんのゆっくりとしたパフォーマンス映像。あゆきちさんがパフォーマンスをしながらいくつものトンネルを走り抜ける映像。エンちゃんが1台の木製の椅子の周りでパフォーマンスをする映像。これらの映像は、キャッチボールで勝負をしているように感じました。そして今回のあゆきちさんのワークショップの時間は、オンラインでつながった2人の本気がぶつかり合うライブパフォーマンスの場となり、観ている人から言葉を奪い、終了後もしばらくたたずんでしまうほどインパクトがありました。

講座全体の振り返りは、ノムさんの提案で、全体を5つのグループに分け、1グループずつ今日感じたことや思ったことなどを自由に表現してもらいました。紙に絵を描く人、ベランダからの景色を伝える人、音を鳴らす人、踊る人、などなど。言葉での振り返りとは違い、言葉では表わせない部分も率直に伝えあい、共有しているように見え、とても感覚的な振返りとなりました。

 

 

その約2時間後に開催したオープン・ディスカッション「オンラインで知り合う身体―障害・ケア・表現」は、6月同様、YouTubeによるライブ配信で、コメント欄に視聴者から意見をもらいながら、日中のワークショップの紹介や表現の場におけるケアのあり方などについてディスカッションをしました。

まず、日中のワークショップの紹介を兼ねて、もりっちさん、ケイさん、あゆきちさんのワークショップの内容とその経緯をそれぞれから語っていただき、それに対して門限ズはどのように関ったのかうかがいました。もりっちさんとケイさんは、他の人と共有したい自分の日常から内容を考え、あゆきちさんは、「表現者同士の本気のパフォーマンスを自分が楽しみたかった。」と語られました。それらに対して門限ズは、言葉や音楽、身体表現を使って、おもしろいことが起きそうな関わり方を直感的にしていたようでした。

途中からは、今回あゆきちさんのケアサポートに入っていただいた「ゴンちゃん」(認定NPO法人ニコちゃんの会介護スタッフ)にも加わっていただき、通常の介護支援業務として関わる時との違いについてうかがいました。ゴンちゃんは、「あゆきちさん達が演劇などの活動をする時には、一緒に作品をつくる者として関わっているので、通常の業務とは違う」と語り、ケイさんやもりっちさんは、「一人の人間として接する前に障害者として接される日常がある」「演劇(表現)の場ではそれがない」と語りました。また、あゆきちさんとエンちゃんは、表現に対する本気度の違いや障害者に対する過剰な甘さ、優しさについて、それぞれの考えを語ってくださいました。

障害と表現とケアについてディスカッションされる中で、視聴者からは「見られ方がひとつに固定化されてしまうことがモヤモヤの原因なのかなと思う」や「私がおもしろいと思うことをやってるだけなのに、『えらいね~』とか『すごいね~』とか言われます」などのコメントが寄せられました。

最後に、表現の場で起こる出来事や生まれた気づきに対する評価のあり方や必要性についても議論されました。

 

今回2回に渡る実践講座は全てオンラインで実施しましたが、対面よりも直接的に伝わってくる表情や言葉や音や動きを通して、これから先、自分たちが何をどうやっていけばいいのか感覚的に知り気づく場になったのではないでしょうか。参加してくださった方々には、その感覚をそれぞれの現場に落とし込んでいただければと思っています。

 

なお、11月には、あゆきち・エンちゃんによるダンス作品のオンラインでの発表を予定しています。どうぞご期待ください。

 

 

九州大学大学院芸術工学研究院 ソーシャルアートラボ事務局

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