topics

【報告】奥八女芸農学校(2019年8月29日-31日開催)

2019.9.4

九州大学ソーシャルアートラボ実践講座
シリーズ「アートと社会包摂」

 2019年8月29日から31日にかけての3日間、福岡県八女市黒木町笠原地区で「奥八女芸農学校」を開催しました。今回の合宿では「撮り、踊り、田に入る。言葉を見つける3日間」をテーマに、演出家・民俗芸能アーカイバーの武田力さん、アメリカを拠点に活躍する写真家の兼子裕代さんを招聘し、アートプログラムを担当していただきました。また、農業に関するプログラムは協働団体である特例認定NPO法人山村塾の小森耕太さんに担当していただきました。
当初は一般からの受講生を募集し、多くの方々にお集まりいただいていましたが、8月28日未明に大きな豪雨が発生し、笠原地区にも甚大な被害がありました。そのためやむなく外部からの受講生に参加いただく形は中止し、すでに現地入りしていた武田さん、兼子さんのプログラムを、滞在中の「奥八女芸農ワークキャンプ」(半農半芸の国際ワークキャンプ)のメンバーたちなどともに実施することとしました。また豪雨災害の状況から判断し、農作業のプログラムを急遽変更し、棚田の災害復旧活動(リカバリー活動)を行いました。
 まず1日目は、この奥八女芸農学校の目的を共有するために、本学教員の長津結一郎のファシリテートにより「アート」や「農業」について、あるいは両者の関係性についての各参加者の考えを共有していきました。午後のアートワークショップではまず、兼子さんからの活動紹介のあと、「サイアノタイプ」のワークショップが行われました。サイアノタイプは、暗室を使わず、感光紙を日光に照らすことによって現像できる写真のワークショップです。兼子さんの1日目の作業は3種類の紙に現像液を塗り、感光紙を作成することからはじまりました。この紙は翌日のワークショップで活用しました。
 つづいて、武田さんから、これまでのアーティストとしての活動紹介を行っていただいたあと、「現代に民俗芸能をつくる」と称したワークショップを開始しました。各参加者は「えんがわ」と呼ばれる、奥八女芸農学校の滞在拠点である笠原東交流センター「えがおの森」から徒歩10分程度の古民家まで、ゆっくりと時間をかけて歩いていき、その中で、自分の身体を介し、自らの記憶と向き合いました。その後に、到着した順番で「えんがわ」で5人ほどのグループに分かれ、その記憶を共有するための発表をひとりひとり行いました。発表するときに起こる身体の動きや表現をグループで共有し、1日目は終了になりました。
 2日目は、リカバリー作業から始まりました。被害を受けた地域の視察を行いながら、特例認定NPO法人山村塾の小森耕太さんに、7年前(2012年)の豪雨災害との比較などを含め、被害の説明を受けました。その後、被害を受けた田んぼの水路が土砂等で埋まっているため、それを復旧する活動を行いました。わずか2時間ほどの作業でしたが、作業を行いながら自然の脅威をまざまざと見せつけられました。作業の途中には、午後の兼子さんのワークショップで「被写体」となる素材を拾い集めました。植物や、泥、石など、その土地の文脈に紐づいたものが写真の材料となります。午後からは兼子さんのワークショップです。いよいよ、感光紙にそれぞれが集めた素材などを貼り、日光に当てて行きます。幸いこの時間だけは日差しが強く、きれいに模様が浮き上がりました。各参加者の創造力が喚起され、素晴らしい作品がいくつも出来上がりました。
 続いて行われた武田さんのワークショップでは、1日目で記憶を手がかりに生まれた身体の振りをもとにして、この地域に伝わる「八女茶山唄」民謡に沿って、それぞれの振りを合わせるディスカッションを行いました。丁寧に対話や議論を行いながら、一つの踊りを作っていきました。
 3日目はこの2日間を振り返りながら、アートと農業の関係を振り返っていきました。「今回の豪雨災害を受け、改めて自然との関係性を強く意識した」という声や、「アートや農業はどちらとも人間の営みであり、どちらでも生きるために必要である」という声など、自然の猛威を前にして人間として「営み」を強く意識した参加者が多かったように思います。また兼子さんのサイアノタイプワークショップや武田さんの「現代に民俗芸能をつくる」ワークショップでは、他者への創造力や、他者との対話の重要性を感じたという意見が寄せられました。
 今回の奥八女芸農学校のサブタイトルは「撮り、踊り、田に入る。言葉を見つける3日間」でした。参加者が奥八女地域で3日間滞在する中でアートプログラムや、豪雨災害のリカバリー作業を通し、思考し、他者と対話する中で、言葉を見つける3日間になったのではないでしょうか? 各人が見つけた「言葉」が、その後どのようにそれぞれの場で具体化し、展開していくのかとても楽しみです。
(文責:藤原旅人)