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(2018年10月28日開催)アウトサイダーアートが問いかけるものー福祉と芸術の狭間から

2018.11.12

シリーズ「アートと社会包摂」

【報告】

 糸島芸農(糸島国際芸術祭)の最終日、クシノテラス主宰でアウトサイダー・キュレーターの櫛野展正氏をゲストにトークセッションが開催された(糸島芸農とソーシャルアートラボとのコラボ企画)。松末権九郎稲荷神社拝殿(糸島市二丈松末)には、会場がいっぱいとなる50人超の来場者が集まり、トークが始まる前から熱気に包まれた。今年の糸島芸農のテーマは「マレビトの通り道」。民俗学者の折口信夫は、マレビト(稀人・客人)を、海の彼方から村人の生活を幸福にして帰る霊(みたま)と表現したが、アウトサイダー・アーティストもまた、マレビトと呼ぶのにふさわしい人たちである。

 櫛野氏は、大学卒業後、知的障害者福祉施設で職員として働く中で、マレビトたちの表現活動に深く関わるようになった。鞆の津ミュージアム(広島県福山市鞆の浦)のキュレーターを経て、2016年にアウトサイダー・アート専門のギャラリー「クシノテラス」をオープンした。クシノテラスが注目するアーティストは、いわゆる障害のある人たちではない。ふだんはふつうに生活を送りながらも、社会の周縁で、他人からの評価を期待するのでもなく、やむにやまれず表現をし続ける人たち—それが、クシノテラスがフューチャーするアーティストたちだ。

 今回のトークセッションでは、福岡での開催にちなんで、福岡県内のアウトサイダー・アーティストに焦点があてられた。福岡市内の超ユニークな内装の美容院「ぺロペディール」、愛用の自転車で久留米をめぐる「カラフルおじさん」、「昭和B級エロ雑誌」などの「奇書ハンター」として知られる小倉の若い女性、北九州の「スーパーデコチャリ青年」(「デコチャリ」とはデコレーション・チャリンコのこと)などなど。次から次へと紹介される福岡県内のマレビトたちの写真や映像を見ながら、来場者は「自分の周りにもこんなにたくさんいるのか」と驚嘆した。トークで紹介されたアーティストの一人、「妄想スクラップ職人」の遠藤文祐さんも会場に駆けつけてくれた。

 どう考えても過剰なマレビトたちだが、櫛野さんの話を聞いていると、最初は滑稽に思えても、だんだん暖かい気持ちになってくる。世の中にはいろんな人たちがいる。何の得にもならないことでも、全精力を傾けて一生懸命やっている人たちがこんなにいる。そんなマレビトたちの姿に、「正直に生きればいいんだ」と声をかけられ、勇気づけられた気持ちになった人も少なくなかっただろう。トーク終了後の来場者たちの充実した表情が印象的だった。これが、福祉と芸術の狭間にあるアウトサイダーの醍醐味なのだろう。

〈文責:中村美亜:九州大学芸術工学研究院准教授〉

※以下は、告知時の情報です。現在は受け付けておりません。

糸島国際芸術祭2018糸島芸農 スペシャルトークセッション
            +九州大学ソーシャルアートラボ シリーズ「アートと社会包摂」公開講座 vol. 3
「アウトサイダーアートが問いかけるものー福祉と芸術の狭間から」

アウトサイダーアートのキュレーションを手がける櫛野展正氏を迎え、アウトサイダーアートの魅力、表現者たちの素顔、福祉と芸術の関係についてお話を伺います。

世の中には、障害のあるなしにかかわらず、表現せずには生きられない、表現者と呼ぶにふさわしい人たちがいます。ヤンキー、死刑囚、一見“ふつう”でも訳ありの人たち…。こうしたアウトサイダーな人たちの多くは「障害がない」がゆえに、「障害者アート」の作者として脚光を浴びることも、作品に価値があると言われることもほとんどありません。しかし、「アウトサイダーアートには、常識や良識でがんじがらめになった私たちの価値観をつき崩す力がある」と櫛野氏は語ります。

トークセッションでは、櫛野氏が運営する「クシノテラス」に所属するアーティストの作品を鑑賞しながら、アウトサイダーアートの理解を深め、多様な人たちが共生する社会にとって必要なこと、そのためにアートができること、アートと社会包摂の望ましい関係について、平場で語り合っていきます。

□詳細
日時:2018年10月28日(日)14:00~15:40(開場13:30)
場所:松末権九郎稲荷神社拝殿(糸島市二丈松末923-9)
ゲスト:櫛野展正(クシノテラス主宰、アウトサイダー・キュレーター)
司会:中村美亜(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)
入場:無料 ※ただし観覧チケットが必要です。
予約:下記URLの予約フォームよりご予約ください。
https://www.ito-artsfarm.com/2018/10/13/talk_kushino/

□ゲストプロフィール
櫛野 展正(くしの のぶまさ)
クシノテラス主宰、アウトサイダー・キュレーター。1976年生まれ、広島県在住。2000年より知的障害者福祉施設職員として働きながら、広島県福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」 でキュレーターを担当。2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。近著に『アウトサイド・ジャパン 日本のアウトサイダー・アート』(イースト・プレス)。
*クシノテラス http://kushiterra.com

□クレジット
主催:糸島芸農2018実行委員会、九州大学大学院芸術工学研究院ソーシャルアートラボ
共催:公益財団法人福岡市文化芸術振興財団
助成:平成30年度文化庁 大学における文化芸術推進事業
後援:日本アートマネジメント学会九州部会