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(2020年1月25日開催)生きていくための音楽『アリラン峠を超えていく』

2020.1.26

【報告】九州大学ソーシャルアートラボ シリーズ「アートと社会包摂」

photo: Akiko Tominaga
 
 

 2020年1月25日(土)、福岡市美術館ミュージアムホールにて、公開講座「生きるための音楽『アリラン峠を越えていく』上映会&トーク」を開催しました。
 今回上映した『アリラン峠を越えていく』は、2014年に国立民族学博物館講堂にて行われた研究公演をきっかけに、2017年まで取材・編集を重ねて制作されたドキュメンタリー映像です。日本社会への同化圧力にさらされ、「私は誰?」とアイデンティティの混乱に見舞われながらも、しなやかに生きる在日コリアンの音楽家たちの姿が描かれています。
 講座では、映像制作に関わった寺田𠮷孝さん、髙正子さん、安聖民さんを交えてのトークを行いました。
 最初に髙正子さんから、在日コリアンの歴史と、ドキュメンタリー映像を制作するに至った経緯を説明いただきました。映像を鑑賞後、ゲスト3名に登壇いただいてトークセッションを実施しました。
 監修の寺田さん・髙さんから「2年に渡って収録した膨大な取材映像の中からどの部分を残すか、その編集作業が大変だった。編集に1年を要した」と、制作過程の大変さが話題になりました。また、この映像の特色として、ナレーターを用いず、出演者である在日コリアンの音楽家たちの「声」で構成されている点を挙げられました。「ある一つの方向への結論」を伝える映像ではなく、考えるきっかけになってほしい、という制作意図も語られました。それ故に、これまで各地で上映会を開いてきた中で「答えのない映画だな」という感想が寄せられることもあったそうです。しかし、制作側が観る人へ一方的に何かを訴える映像でなく、「考える場を提供する」ことを大切にしたいという考えを示されました。
 また、寺田さんは様々なマイノリティ集団の音楽文化を映像番組にしてきた経験から「在日コリアンに限らず、すごく辛い差別を受けてきた人たちは、そのことを自分の子供たちには語らないことが多い」と話されました。
 そのような貴重なお話から、様々な立場の人たちの記憶を記録、伝承、共有することの重要さや、伝える側の人が客観性・公平性を保つことの大切さを学ぶことができました。
 最後は安聖民さんがチャンゴ(朝鮮半島の伝統的な打楽器)を叩きながらアリランメドレーを歌唱。客席の参加者からも手拍子と歌声が響き、演奏が終わると会場のミュージアムホールが大きな拍手に包まれました。





参加者:98名

場所:福岡市美術館 ミュージアムホール

時間:

1/25[土]14:00-17:00(13:30開場)

参加費:無料

[ゲスト] 寺田𠮷孝(国立民族学博物館 教授)、髙正子(神戸大学 非常勤講師)、安聖民(パンソリ唱者)
[聞き手] 中村美亜(九州大学大学院芸術工学研究院 准教授)
スタッフ:長津 結一郎(SAL教員)、村谷 つかさ・白水 祐樹・眞崎 一美・藤原 旅人・山本 哲子(SALスタッフ)
UDトーク:川上里以菜・墨田知世(九州大学芸術工学部)、密岡稜大(九州大学大学院芸術工学府)
後援:福岡市、日本アートマネジメント学会九州部会
(文責:白水 祐樹)