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【報告】奥八女芸農プロジェクト(2018年8月-9月開催)

2018.10.3

期間:2018年8月〜9月
会場:八女市黒木町笠原地区

 地域とアートが関わる取り組みが、日本全国で行われるようになって久しくなりました。ですが、アートを通じて地域に実際にどのようなことがおこり、それにはどのような意味があるのか、と考える機会は、まだまだ不足しています。

 九州大学ソーシャルアートラボではこのような地域とアートの問題について考えていくため、福岡県八女市黒木町笠原地区において、市民参加型のアートプロジェクトを実施してきました。福岡市内から大型バスで笠原地区に訪れる「アートバスツアー」を企画したり、公募で集まってきた参加者の方たちがアート・ワークショップを体験したりアートプロジェクトを構想したりする講座を行ったりしてきました。

1つめは、「奥八女芸農ワークキャンプ」。NPO法人山村塾で長年実施している国際ワークキャンププログラムと協働し、28日間のプログラムを実施しました。ゲストアーティストに、演出家・民俗芸能アーカイバーの武田力さんを迎え、地域に暮らす人々の日常や土地の歴史から立ち上がる「民俗芸能」を創作するプログラムを合宿形式で実施しました。

参加者募集にあたっては、NPO法人NICE(日本国際ワークキャンプセンター)に協力いただき、3名(香港から2名、ロシアから1名)の参加者に集まっていただきました。参加者のみなさんは、作品制作のみならず、武田力さんや、NPO法人山村塾と共に、笠原地区の棚田整備、ヤギ牧場の管理等の農作業にも従事することで、「半農半アート」の生活を試みました。

山村塾ウェブサイトでのweekly reportもご覧ください。

 滞在の終盤には、地元の方々向けの成果発表を行いました。地域住民への綿密なフィールドワークを通じ、チェーンソーを用いて杉を引き倒す動作に着想を得たパフォーマンスを制作し上演しました。笠原地区で生きる人々の生活に息づく動きを基に、生活の基盤にある「山への祈り」を込めた表現ができあがっています。この表現がプロトタイプとして、今後さらにこれを継承し展開していきたい、という地域の方々からの反応を嬉しく拝見しました。

 2つめは、「奥八女芸農学校」です。2泊3日の合宿型講座プログラムに加え、奥八女芸農ワークキャンプで制作された作品を期間の終盤に参加者みんなで体験する講座を持ちました。

 合宿型の講座プログラムでは、武田力さんのほか、異なる人々同士の丁寧な対話と交歓を通じたアートワークを展開するジェームズ・ジャックさんによるレクチャーやワークショップを体験する講座を行いました。

 ジェームズ・ジャックさんによるワークショップ「渡りゆく物語」では、笠原地区に移住する外国人を想定した移住ガイドブックを創造的に制作する共同作業を実施しました。また、NPO法人山村塾が整備する棚田に行き、山村塾のみなさんから被災時の状況についてレクチャーを受けたのちに、棚田整備のため全員で畑に入り雑草取りなどを行いました。その後、旭座人形芝居会館に移動し、武田力さんからは自身の活動紹介ののち、ワークショップ「現代に民俗芸能をつくる」を実施。グループに分かれて、この滞在期間中に印象的だった出来事をもとにして、身体表現を即興的につくるワークショップを実施しました。

 こうした体験を踏まえ、合宿最終日には振り返りセッションを実施。受講生からは一人ずつ「アート」「農」というテーマについてプレゼンテーションを行いました。また、奥八女芸農ワークキャンプの成果発表にも参加し、ディスカッションを行いました。

  山村塾との連携も4年目。引き続き笠原地区のみなさまと協働させていただきながら、アートと農のこれからのあり方について引き続き考えていきたいと思っています。

以下はアーティスト及びアート・コーディネーター募集の際の情報です。現在は応募を受け付けておりません。

■「奥八女芸農プロジェクト」アーティスト及びアート・コーディネーター募集〔5/28必着、締め切り終了〕

このたび九州大学大学院芸術工学研究院ソーシャルアートラボは、特定非営利活動法人山村塾と共同で「奥八女芸農プロジェクト」を福岡県八女市黒木町笠原地区にて実施します。現地に滞在して棚田の草刈りなどの農作業とともにアートワークを実施・製作・発表するアーティストと、アーティストをサポートするアート・コーディネーターを公募します。詳しくは下記の募集要項をご覧ください。

◎企画者からのメッセージ

地域とアートが関わる取り組みが、日本全国で行われるようになって久しくなりました。ですが、アートを通じて地域に実際にどのようなことがおこり、それにはどのような意味があるのか、と考える機会は、まだまだ不足しています。
九州大学ソーシャルアートラボではこのような地域とアートの問題について考えていくため、福岡県八女市黒木町笠原地区において、市民参加型のアートプロジェクトを実施してきました。福岡市内から大型バスで笠原地区に訪れる「アートバスツアー」を企画したり、公募で集まってきた参加者の方たちがアート・ワークショップを体験したりアートプロジェクトを構想したりする講座を行ったりしてきました。今回、これらのプロジェクトを発展させ、「奥八女芸農プロジェクト」を立ち上げます。
アートは地域に対しての単なる「道具」ではなく、何かを与えたり気づかせたりする「装置」であるはずです。奥八女芸農プロジェクトは、豊かな自然と災害後の復興などの課題を持つ笠原地区を舞台にして、アートと社会の関わり方について、実際に手を動かしながらじっくり考えるための、ささやかな実験です。

九州大学大学院芸術工学研究院ソーシャルアートラボ 長津結一郎

平成24年九州北部豪雨により笠原地区は、道路や河川、家屋はもとより、棚田や茶畑にも甚大な被害を受けました。徐々に進んでいた担い手不足は災害により急速に進んだ印象があります。棚田や茶畑の風景は、米や茶を生産する場だけではなく、多くの生き物を育み、水や空気を守り、私たちの心を和ませてくれます。
今回の奥八女芸農ワークキャンプには、二つのことを期待します。一つは、自然に囲まれた農山村で暮らしながら、アーティストやボランティア、地域住民の交流を通じて、半農半アートのプロジェクトを試行すること。そのため、アーティストにはアート制作だけでなく、ボランティアとともに農作業や山仕事に汗を流してもらいながら、地域の一員として自らのアート事業を創造していただきたいと考えています。
もう一つは、アートの力によって、棚田や茶畑、森林の新しい魅力が見いだせないかということを期待しています。果たして棚田は米づくりだけの場所なのか? ほかにその存在意義はないのだろうか? 農林業関係の業界では、農業や林業の多面的な機能、つまりは生物多様性や水土保全などの公益的な機能をアピールしますが、それだけでは何だか寂しい。時間をかけてでも地域の暮らしや文化とつながるようなアート事業がこの地域で育まれることを期待しています。
今年は「芸×農×ワークキャンプ」に取り組む最初の一年です。今後に向けての第一歩となるような開拓精神のある方のご参加をお待ちしております。

特定非営利活動法人山村塾 事務局長 小森耕太